7年後の「中二病でも恋がしたい! 戀」

エピソード戀1 異世界からの訪問者 「私は魔法魔王少女として一般人の『もしも』のための補償サービスをオススメしているんだよ!」

ある日。富樫家に一人の訪問者がやってきていた。

呼び鈴を鳴らす一人の女性。
それは7年前に俺らと再開し今も頑なに魔法少女を続けている存在。

――厨二病。
人の心の奥深くにあるもの。

それは偶然の再会を経ても同じことのようであった。



「こんにちは。〇〇生命保険セールスパートナーの七宮と申します、って勇者!」
「誰かと思えば七宮じゃないか! 久しぶりだな。その格好……お前どうしたんだ?」

七宮はビジネススーツを身にまとい、その姿はセールスレディそのものであった。
唯一昔の名残を思わせるのは少し長めのスカーフ。それが風にふわりとなびいている。
彼女は『社会人』になったのだ……その事実に少しながら驚いている自分がいた。

「何、目頭押さえてるの? 花粉症?」
「いや、なんか変わった姿にな……それより、ウチに何か用か?」

俺は感動してなんかいない。ただ卒業の二文字を目の当たりにしたことでちょっと驚いてしまっただけだ。
七宮……立派になったな。卒業式の時に学生を見送る先生ってこんな気持なんだろうか。

「私は魔法魔王少女として一般人の『もしも』のための補償サービスをオススメしているんだよ!」

――訂正しよう。
彼女は何も変わっていなかったようだ。
そう言えばこの家に来て俺のこと勇者って最初から呼んでたか。

「え? 悪い……意味が分からなかった」
「もう一度言うよ! 『もしも』のための補償サービスをオススメしているんだよ!」
「…………そうか」

俺は厨二病ワードに敏感になりすぎるきらいがあるらしい。
厨二病ワードを無視して状況を客観的に考えればなんてことはなかった。
要するに現在、七宮は保険セールスの仕事をしているということなのだろう。
ただ、これだけは確認しておかねばなるまい!

「現役で魔法魔王少女なんだな……お前」
「それは当然! まずはご挨拶にキャンペーン中のグッズをお配りするんだよ!」
「あ、魔法魔王少女でもそこはちゃんと仕事するんだ……」

魔法魔王少女が保険セールスとは……そのギャップがまたシュールすぎる。

「アナタ……誰か来たの?」

玄関がすこし騒がしかったか……六花が顔を出した。

「あ……魔法魔王少女、ソフィアリング・SP・サターン7世」

六花もスーツ姿に驚いたようだが、七宮を『本来の名』で呼んだ。……よく覚えてるな。

「にはは……お世話になります。邪王真眼……えっともう違うんだっけ?」
「今は二児の母」
「それはそれは……あ、これ皆さんにお配りしているものなんだよ。お子さんがお二人ということだから2個つけちゃうよ! あ、他の人には内緒にしておいてね!」

色違いの可愛らしいキャラクターグッズを取り出す七宮。
それと合わせて色とりどりのカタログを差し出している、さすがセールスレディ。そこは抜かりない……。

「最近どうかな? お子さんが小さいから忙しいでしょ?」
「やっぱり子育ては大変だな。慣れないことばっかりで」
「そうだよね。不安だよね。私も数多くのお宅を回っているから分かるんだよ。そういうまだ小さいお子さんがいるお宅にはこのプランが合っているんだよ! これからお金がかかってゆく先々、お子さんの成長に合わせて家計の負担を少なくするための特典が受けられんるんだよ!」
「え……あ、……はぁ」

七宮は自然な流れでセールスの話に入ってきた!
マシンガントークではない。六花の方も適度に相槌を打つだけの余裕はある。
だが六花と俺はテンポと強弱をつけた話術に思わず話を聞き入ってしまっていた。
もしかしてコイツ営業成績優秀なんじゃないだろうか?



「お兄ちゃん……二菜いる?」

しばらく七宮の世間話という名のセールストークを織り交ぜた雑談が続いていたのだが、話の腰を折ったのはマンションにやってきた夢葉だった。

「あ、夢葉ちゃん、ごめんね。ウチの子たち昼寝に入ったところだからしばらくは起きないと思う」
「そっか。なら、出直そうかな」

六花が答えると少し残念そうに呟く夢葉。
最近はよく遊びに来ては子どもたちの面倒を見てもらっているのだった。
手持ち無沙汰になってしまった妹はマンションの通路の壁に寄りかかってどうしたものかと思考を巡らせている。
その様子を眺めながら七宮が話を再開した。

「キミの妹さん?」
「ああ。そう言えば七宮は、会ったことなかったっけか? 俺の末の妹」
「富樫夢葉です……」
「これはご丁寧にどうも。七宮です」

(この人……なんだろう。見た目とちょっと雰囲気が違うっていうか……)
自己紹介した夢葉は七宮の目を見て少しだけ考え込んだ。
(これは精霊の気配……。もしかして裏切ったモリサマーの加護を受けた者? ……まさかそんなはずは! この世に存在しているはずがない! ここはすこし試してみようかな……)

「……不可視境界線管理局(ボソリ)」

夢葉は表情を変えないままさらりと呟く。その言葉は厨二病ワードだった。

「……(ピクリ)」
「っ……ゴホッげほ! ぅううっん!」
「ふかし……え? 夢葉ちゃん、だっけ。ゴメンなんだって?」

七宮は突然の夢葉の呟いた言葉をうまく聞き取れなかったようだ。主に反応したのは俺だけだった。
あ、六花はカタログを眺めていたようだ。前髪で反応するとは器用なやつだ。

「……いえ、なんでもないです」

再び夢葉は考えこんでいる。
(やっぱ違うのかな……でも単純に聞き逃した可能性も否定出来ないし)

「すいません、唐突ですが『しりとり』しませんか?」
「……? いいけど?」

夢葉の突然の提案に少し怪訝な顔をした七宮だったが、すぐに営業スマイルに戻る。
セールスレディたるものいつでも外では常に笑顔を振りまいているのだろう。その辺りは慣れているようだ。

夢葉は冷静に最初の一手を紡いだ。
(これで……私はこの人の正体を暴いてみせるっ!)

「では私から……不可視境界線管理局」

「……ぐっ!」
「お兄ちゃん少し黙ってて!」
「……はい」
「く……く……ね。くらげ」

少し悩んだようだが、七宮は次へと繋げる言葉を紡ぐ。それよりも夢葉……俺に何か恨みでもあるのか?

「……ゲルゾニアンサス」

夢葉はチラリと七宮を見る。七宮の方も気づいたようだった。

「スピリチュアル・カリカチュア!」
「アバロンスマッシュ!」
「シュバルツゼクスプロトタイプMk-Ⅱ!!」

オイオイ、厨二病技名しりとりとか、こいつら高度な遊びを。

「……なかなか……やるね。キミも」
「あなたこそ」

「……あなたは何を……何が目的ですか?」

夢葉が七宮に問う。その唐突な質問に七宮は言葉を噛みしめてすこし逡巡した後、言葉を返した。

「人の不安を安心に変える、そんな手伝いを……ってキミの欲しい答えはそんなのじゃないんだよね? 目を見ただけで分かったよ。キミ……かなりできるね?」
「――やはり。今から少しだけお時間……いただけますか?」

夢葉の目の奥には闘志の炎が燃えたぎっているようだ。

「魔法魔王少女は忙しいのだ! と言いたいところだけど、あとは事務所に帰るだけだし少しだけなら付き合ってもいいよ。にはは~久々に面白くなりそうだよ!」
「お手柔らかに頼むぞ……最近
凸守早苗
某女子大生
の影響を受けて困っているんだ。それにお前仕事中だろ?」

「にーっははは~分かってるよ。まぁ、そんなに無駄な時間じゃないよ。お仕事の方もノルマが達成できそうだし……」

チラリとみた七宮の目線の先にはカタログに釘付けの六花。
え? あ、いつの間に! 六花……なんか目の色が違うぞ。

「アナタ、これにする!」
「待て、六花……即決するな! 後で話し合おうな?」

「うんうん、よく考えて決めるといいよ。この子との対決が終わる頃に回答がもらえると嬉しいけど」
「このポイント貯めるともらえる特典。なんかカッコイイ!」
「だから待てって!」

子供ができて鳴りをひそめていた六花の厨二病。七宮と夢葉のやりとりに刺激されたのか復活の兆しを見せていた。
なんとか冷静さを取り戻した六花と勇太は、小一時間の家族会議の末、富樫家の保険を切り替えることを決めたのであった。



「ご成約ありがとうございます。にーっははは~今月もノルマ達成なのだ!」
「お前よくそんなんで、営業の仕事やってられるのな」
「人は見かけじゃ判断できないんだよ! ね? ドリームリーフちゃん」

誓約書を受け取りクリアファイルに閉じる七宮は夢葉に語りかける。
戦いを終えて戻ってきた夢葉はぐったりとした様子で呟いた。

「……侮っていた。戦歴の差がここまで響くとは思ってもみなかった。魔法魔王少女……恐るべし!」

何があったのかは知らないがどうやら勝敗は決し、夢葉は完全敗北したようだ。

「にーっははは~魔法魔王少女! 完全勝利だよ!」

刻が経っても人の本質は変わるわけではない。
彼女の変わらないもの。彼女が願って変えようとしないもの。その本質が『厨二病』ということなのだろう。

今も変わらない彼女の高笑いが部屋に響きわたっていた。


END


8年後の「中二病でも恋がしたい!」
(二次制作小説)

  • エピソード1 居酒屋での語らい
  • エピソード2 厨二病の継承者
  • エピソード3 旋律のナイトシエスタ
  • エピソード4 境界線上の決闘
  • エピソード5 戦場のアルバイター
  • エピソード6 聖調理人のレゾンデートル
  • エピソード戀1 異世界からの訪問者
  • 8年後の「中二病でも恋がしたい!」設定
  • MMDでも中二病したい
  • にゃんくるオリジナル小説、二次小説一覧