8年後の「中二病でも恋がしたい!」

エピソード5 戦場のアルバイター 「いい? ……ここは戦場だと思いなさい」


私の名前は冨樫樟葉。アルバイトしながら短大に通っている普通の女子。
……ってなんだろうこの書き出しは。

短大で身近な人の特長をつかむことで本質を見極めるなどという講義があったので、実際にやってみることにしたのだが、ノートに書きだして1文で一気にやる気が萎えた。

自己紹介みたいに書きだすものじゃないね……。
誰かに見せるわけではない。だが、この書き出しは自分が小説の主人公になっているみたいで正直恥ずかしい。
ま、いっか。続けてみて駄目ならノートごと破棄しよう。

私はチマチマとした細かいことがあまり好きではない。
そんな私を見かねてか、兄からは「男らしい」といじられることもある。
くそぅ……思い出したら悔しくなってきた。せっかくなので家族の赤裸々な話題を展開しようではないか。

私は3人兄妹の真ん中で、兄と妹がいる。
お兄ちゃんはすこし変なところはあるけど、基本ハイスペックだ。
学生の頃はわざわざ遠い進学校に通っていたし、母が夜勤で遅い時は料理もこなす。
私や末の妹のことを気にかけてくれているし、ルックスも悪くはない。
高校の時から付き合っていた六花さんとは結婚して幸せな家庭を築いている。
紆余曲折はあったけど人生勝ち組なんじゃないかと……思う。

妹の夢葉はというと……最近ちょっと手に負えない感じに成長してしまった。
厨二病というのだろう。何かと日々戦っているようなのだ。
ああ、この感じ。どこかで感じたと思ったら……昔のお兄ちゃんのようになってしまったのだ。
兄のときは私も相応に幼かったし、男ならばそういうこともあるのだろうとあまり深くは考えなかった。
だが、夢葉の場合は自分が姉という手前、厨二病に染まっていくことへの危機感を抱かずにはいられなかったのである。
一方、母さんは相変わらずこの状況を面白がっているみたいだった。
すこし前に夢葉の部屋から不思議な呪文が聞こえてきた時のこと、母が私に問いかけた内容が、

「ねぇ樟葉。妹の……夢葉がっ……私の夢葉がお兄ちゃんみたいになってくわ! せっかくならお姉ちゃんみたいになって欲しかったのにっ! キィー! ……みたいなの無いの?」

とか聞いてきた。正直に「別に……どうでもいいよ」 と答えたら、

「ちぇ~~つまらないの」

と言いながらも、その話をてんこ盛りに誇張してジャカルタにいる父さんに電話していたらしい。その話では妹の成長に対して私は兄に対してジェラシーを感じる姉ということになっていた。
おととい、私にかかってきた父さんからの電話でそのことを知ったよ。母よ。事実を正確に伝えなさい。事実を。
まぁ、電話口で父さんに事実を伝えたら伝えたで、

「なんだ、つまらないじゃないか!」

と言われてしまったので両親にとっては何が起こっていようがあまり気にすることでもないということなのだろうか。
あの二人は話を面白いかどうかだけで判断するきらいがあるからね……。
さて、話を戻すと……。
兄のソレは若気の至りというやつで当時はっちゃけていたというだけにも思えるのだが、夢葉の場合は少し違うように思えるのだ。
そのあたりはよく分からないのだが、姉としてはいろいろと思うところがあるのだ。
まとめ。長女はいろいろと楽じゃないね。

ここまで書き続けて『やっぱりこれは無い』と思い、適当にまとめに入った。
はぁ、文章としての構成力も残念なのは認めるけど、内容的にも残念だったよ。
最初からうまくいくわけではないが、この支離滅裂な展開は日記か何かと言われても仕方がない。
さすがにノートごと破棄するのは気が引けたので、該当するページをバッサリとハサミで裁断することにした。



短大生というのは基本的に4年制大学生よりも忙しいと言われている。
確かに暇と言える時間はないが、アルバイトするくらいの時間はとれる。

短大に入ってから変わったことがある。まず、先立つものが色々と増え始めたのでバイトを始めた。
実のところはその始めた理由は建前で、本当はアルバイト先の飲食店で少しでも料理を会得したいと思ったからだった。

そんなきっかけとも言える出来事が起こったのは私が夕飯の当番で料理を作った時の事だった。
久々に家に立ち寄った兄と学校から帰ってきた妹(母は夜勤に出かけてしまった)で食卓を囲んでいた。

話題は自然と久々に帰ってきたお兄ちゃんの話になったのであった。
お兄ちゃんの結婚が決まって、六花さんは花嫁修業という名目で姉の十花さんにしばらくの間、料理を叩きこまれたらしい。
十花さんは海外で暮らしているプロの料理人。わざわざスケジュールを空けて来日し数週間におよぶハードな料理特訓をしたようだ。
十花さん曰く、『夫のほうが料理が上手いなんてことは世の中ざらにあるが、女としてそれはどうなんだ? 上手いに越したことはないが、せめて手料理のひとつくらい食卓に並ばせられなくてどうする』ということらしい。
六花さんもお兄ちゃんに手料理を披露していたらしいので料理がまったくできないというわけでもないみたいであったが、兄によると愛情でカバーすればなんとか通用するかレベルだったそうだ。
……六花さん。お兄ちゃんにすごく愛されてるよ。よかったね。

そんなわけで料理人を姉にもつ妹は大変だなと思っていた矢先の事だった。

「樟葉の場合、味は悪くないんだが、なんか『男っぽい』料理だよな」
「そだね~。お姉ちゃんの料理は家庭の味というより『ワイルド』だよね、美味しいんだけど」

料理の話題から私の今日の食卓に飛び火してしまったのである。
妹の手料理を男らしいとか……まったく、失礼な話だと思わないだろうか?
だいいち『男っぽい』とか『ワイルド』とか料理につける褒めゼリフじゃないでしょ……
お笑い芸人の決めセリフじゃないんだから!
それからというもの探していたバイト先が飲食店になるのは自然な流れだったように思う。



というわけで、私がバイトを始めたのだ。
ホントはオシャレな喫茶店のバイトが良かったのだが、時給とシフトの関係で居酒屋になった。

「この仕事……舐めないほうがいいよ? いい? ここは戦場だと思いなさい!」

まず、入ってまず一番最初に先輩の居酒屋アルバイターから聞いた言葉だ。
最初は意味がわからなかったが、働いてからすぐにその意味を知ることになる。

「ああ~もう、店員! 早く来なさいよ!」

忙しいことは言い訳にはならない。ここは居酒屋。酒を飲んだ客にそんな論理は通用しない。
少しでもお客さんの対応に戸惑ってしまうとこのような暴言が飛ぶことも少なくないのだ。
私は注文のオーダーが済むと料理ができあがるまで各テーブルの皿を回収しに向かう。

「ここは戦場、そう時間との戦いよ。少しの迷いが命取りになるの!」

そうそう、先輩アルバイターにはいろいろなことを教わったっけ。
酔っ払った人への対応とか、注文が遅れた時の上手な謝り方とか……。

「結構ハードだけど……できればすぐにやめないで欲しいかな……」

とも言っていたっけ。その先輩アルバイターが辞めてしまったので、その言葉への信憑性が増してしまったのはまた別の話である。

ひと通りテーブルを回ってきたところで先ほどの注文が出来上がってきた。
串カツが揚がると、刺身盛り合わせと共にテーブルへと運ぶ。
(先ほどもすぐに持っていったのだか、再び注文が入った)中ジョッキのおかわりも抜かりない。

「きたきた、さて、始めようかしらね……」
「串カツきたデス……もう覚悟決めたデス……」

メニューを待ちわびたかのように空のジョッキを渡してくるお客さんの女性たち。
居酒屋だからと言って、このように女子会を行う人たちがいるのでこの店では男女比率はそれほど偏ってはいない。
女性向けのメニューも揃っているので、居酒屋メニューだからといって馬鹿にしてはいけない。
人気のメニューは自分でも作れるように料理の幅を広げようと目論んでいるのだ。

ちなみに、先ほどメニューを注文した丹生谷さんと凸守さんはこの店の常連さんである。
……私生活でいろいろと大変なんだろうか。

そんなことを考えつつ私はバイトに励むのであった。



いろいろ大変なことはあったものの、今のところ居酒屋のバイトをやめないでいる。
それは屈辱を味わった食卓のリベンジがあるからだ。そのリベンジの時は思いのほか早くやってきたのであった。
あの食卓から数週間後、ふたたび同じメンバーで食卓を囲む時がきたのだ。
カレーやチャーハン、焼肉、丼物だけとは言わせないよ……
もう『男らしい』料理しか作らない過去の私とは違うんだから!

まずは冷奴! 素材の味を生かしたシンプルな味わい。ヘルシーと女性に人気なメニュー。
そしてサラダ、健康を考えて野菜だって新鮮なものを選んで使っている心遣いは評価してほしい。
(サラダというか塩キャベツだけど。キャベツだって野菜なのだから気にしてはいけない)
最後に男の子が好きな唐揚! 普段から愛妻料理を食べていて少々カロリーが心配なお兄ちゃんのことを考えて、低カロリーな軟骨にしてみました!

ふぅ……さぁ、居酒屋で学んで増えた私の料理レパートリー!
どうだろう? 二人を納得させることができるだろうか?

「うまそうだな……ってか、なんと言うか、ビールが欲しくなるメニューだな」
「……お店に出そうな本格的なメニューだね、お姉ちゃん」
「そうでしょ? ま、食べて食べて♪」

二人のお褒めの言葉により、私のリベンジは完了した? ……のであった。

END


8年後の「中二病でも恋がしたい!」
(二次制作小説)

  • エピソード1 居酒屋での語らい
  • エピソード2 厨二病の継承者
  • エピソード3 旋律のナイトシエスタ
  • エピソード4 境界線上の決闘
  • エピソード5 戦場のアルバイター
  • エピソード6 聖調理人のレゾンデートル
  • エピソード戀1 異世界からの訪問者
  • 8年後の「中二病でも恋がしたい!」設定
  • MMDでも中二病したい
  • にゃんくるオリジナル小説、二次小説一覧