8年後の「中二病でも恋がしたい!」

エピソード4 境界線上の決闘 「……血の味か、結構、美味しいけど」


厨二病。
それは中学二年の頃になりやすいとされている、恐ろしくも愛すべき病のことである。
7年後のある夏の日、つまり8年後を軸とすればその一年前。
そこで運命とも言える出会いがあった。富樫夢葉と凸守早苗が出会ってしまったのである。
六花と勇太の元を訪れていた凸守早苗。
そこに居合わせた夢葉と言葉を交わし、一緒に外に出ることになった。

厨二病を患っている少女。
いまだに厨二病が抜けていない女子大生。
それは衝撃的な出会いと言っても過言ではない。
二人は惹かれ合うべくして出会ったのだ。
――いや、その表現は適切ではないかもしれない。
何故ならば、二人は敵同士なのだから。



集合住宅の間に設けられた小さな公園。富樫夢葉は凸守早苗と対峙していた。

「ふ、ここまで逃げずに来たことだけは褒めてやろう、凸守早苗!」
「何を言うデスか、ここに誘いこんだのはお前の方デス!」

ここは収束点にも劣らない不可視境界線の出現ポイント。
管理局の魔術師である夢葉にとって絶対に攻略される訳にはいかなかった。

「この線を超えたら私を止めることができないぞ……凸守早苗! いや、邪王真眼のサーヴァントにしてミョルニルハンマーの使い手!」
「恐れることなどないデス! 我がマスター、邪王真眼の悲願、不可視境界線の探索はついに成就しようとしているデスから」

凸守とは砂場を挟んで、およそ10メートル。
絶対防御壁である砂漠地帯(砂場)を突破されていないのが不幸中の幸いだ。

「爆ぜろリアル、弾けろシナプス! バニッシュメント・ディス・ワールド!! デス!」

凸守が展開した結界により、世界は反転する。
片手を伸ばし、その手にハンマーを出現させた凸守。軽く振り回してその重さの感触を確認する。
一方、夢葉の両手には、二丁拳銃。魔術的彫刻を施した銃が赤い光を灯している。

「結界魔法か……」
「デュフフフ! 凸守が継承したのはミョルニルハンマーだけではないデスよ! いくデス!」

繰り出されるミョルニルハンマー。夢葉は繰り出されるハンマーから逃れるように後ずさる。
一撃、もう一撃と繰り出されるハンマーを避けるだけで夢葉は攻撃を仕掛ける様子はない。

「攻撃をかわすだけデスか? このままでは後がないデスよ?」
「視えた! そこっ!」

体を翻して、ハンマーを受ける夢葉。だが、それが目的ではない。ハンマーの重量を利用して体を支点に一回転する。

「なっ!?」

虚を突かれた凸守は夢葉を見失う。繰り出されたハンマーは空を斬るだけだ。

「シュタインズカタパルトバニッシュメント!」

背後から放たれた言葉、気づいた時には時すでに遅し。
夢葉の放った砲撃によって凸守は行き場を失う。弾幕状に放たれた銃撃。一撃でも被弾すれば命はない。
凸守は大きく後ずさって距離をあけ、障害物を利用しながら砲弾をかわしてゆく。

「甘い! バニッシュメントレート オーバー120!」

夢葉の砲撃はさらに勢いを増やしてゆく。
完全に行き場を失った凸守はハンマーで砲弾を弾き返し誘爆を狙う。誘爆した砲弾は周りを巻き込んで爆発し、辺りは炎の海に包まれる。
だが、それでも避けきれなかった砲弾がハンマーを逃れ左腕を貫いた。
左腕に激痛が走るなか凸守はとっさに物陰に隠れ、砲弾の嵐をその身に受けるのを避けたのだった。

「くっ……左腕はもう使えないデスね」

凸守は動かない腕をスカーフにて固定すると、ハンマーを構え直す。
辺りは夢葉の放った砲弾によって炎上し黒い煙を上げていた。いまだ燃えさかる炎の影から夢葉が姿を現わす。
両手に展開された二丁拳銃。その銃口は凸守に向けられたままだ。

「ほう……私のシュタインズカタパルトを受け、その程度の傷とは。見上げたものだ……」
「これが、不可視境界線管理局のすることなのデスか!」

凸守は左腕に走る激痛に喘ぎながらも、夢葉にその真意を問いかける。

「極悪非道……とでも言いたそうな顔だな……だが、手段を選んで境界線を守ることはできないのだ」
「勝ったほうが正義……そういうことデスか」
「いかにも。よく分かっているじゃないか、凸守早苗。さあ、覚悟を決め、私の砲撃の的になるがよい」

絶体絶命の凸守。だが、その目は闘志に燃えていた。

「さようなら! ミョルニルハンマーの使い手」

不敵の笑みを浮かべた夢葉が引き金を引くのと同時に凸守は横に大きく飛ぶ。
砲弾が貫いた場所からは赤い炎があがるが、すでその場所に凸守はいない。
凸守は左腕を庇いながら左右に大きく飛び、夢葉との距離を縮めてゆく。

「チッ、ちょこまかと……」

素早い動きのせいで凸守に照準を定めることができない。焦る気持ちが夢葉の手をさらに鈍らせる。
そうしている間にも距離をどんどんつめられていった。

「腕一本あれば、ハンマーはふるえるデスよ! ルナティック・ミョルニルクラッシャー!」
「無駄なことを……リーフシールド!」

凸守のハンマーと夢葉の展開した防御魔法陣がぶつかり合う。双方から激しく火花を散らし、その周りに雷撃が走る。

「はぁぁああ!!!!」

凸守は片腕に力を込め、精神を集中させる。

「まだまだ、いくデス!」

ミョルニルハンマーに魔法陣が展開される。魔力が精製されハンマーが増強されてゆく。
加速力が増したハンマーが夢葉の防御魔法陣を押し込みはじめる。

「な――んだとッ!!!」

幾重にも防御魔法を展開していた夢葉だったが、ハンマーの圧力によって防御魔法陣ごと吹き飛ばされた。

「なんというふざけた力だ……は、しまった絶対防御壁が!?」

絶対防御壁を超えて吹き飛ばされた、夢葉。
体制を整えた時にはすでに凸守は絶対防御壁に入り込んだ後だった。

「絶対防御壁突破されただと! 不可視境界線を緊急閉鎖! 急げ!」
「いまさら遅いデス! 一気に突破するデス! ……うわっ!」

凸守が片手を振り上げた状態で盛大に倒れこむ。
絶対防御壁である砂漠地帯(砂場)に仕掛けられた落とし穴に足をとられたのだ。
片腕をスカーフで固定した状態なので、身動きがなかなかとれない。

「引っかかったな! ミョルニルハンマーの使い手よ! ここは管理局の絶対防御壁! トラップホールが幾重にも仕掛けられているのだ!」
「ぐぅうう! 体が重い、うわっこのままでは、吸い込まれるデス!」

トラップホールが発動し、重力場に変化が現れる。凸守は必死に抗うが時間の問題だ。

「残念だよ……もう少し楽しませてくれると思っていたのだが……」
「体が、思うように、動……か、ない!」

意識が薄れゆく凸守。手を伸ばすが夢葉には届かない。

「まだ……デス! まだ、終わってないデス……マビノギオン……七色の写本……第、三章、一節!」
「!? ま、マビノギオンだと!」

全身を押しつぶすような重力に耐え、苦しげに言葉を紡ぐ凸守。その言葉は弱々しいが、詠唱を始めた彼女の周りには光があふれていた。

精霊の囁きと光と水の想いが私達に届くとき、白い世界は開かれるのデス!
400年にわたって世界を見続けてきた私には分かりまス。
この世界で一番必要なのはっ……愛!

凸守の周りに光が収束し、紡がれた光は夢葉に向けて放出される。
光に包まれた夢葉は全身を焦がされてゆく。

「モリサマーぁあああ! 光の精霊を使役する魔術師にして不可視境界線管理局を離脱した裏切り者めぇ、その力をミョルニルハンマーの使い手に託すなど……許さん! 断固として許さん! ぐぁああああああ!」

辺りは優しい光に包まれた。



戦いは終わったのだ。
だが、管理局の手により境界線は封鎖され、あと一歩のところで不可視境界線に辿り着くことはできなかった。
マビノギオンの魔術を受け、瀕死の状態となった夢葉。

「私はもはや瀕死の状態、この身が朽ち果てるのを待つだけ、笑いたければ笑え!」
「……富樫夢葉、受け取るデス!」

凸守が差し出したのは紙パック入り飲料。夢葉が(設定上)気を失って動けない間に買ってきたものだった。

「呪いまでは無理デスが、歩けるまでには回復するはずデス」
「情けなど不要……」
「ふ、情けなどではないデス! これは血の味がする飲み物、風味を味わえるように人肌まで温めておいたデスよ!」
「クッ……背に腹は代えられないということか」
「生きながらえながらその苦しみを味わうがよいデス! フム、刻がきたようですから凸守は去るデス!」

BGMを口ずさみながら凸守は去っていった。
公園に一人残された夢葉。ストローを紙パックに突き刺し、口に運ぶ。
口の中に風味が広がる。

「……血の味か、結構、美味しいけど」

それは、ほんのりと甘い、いちごミルクの味だった。
富樫夢葉はしばらくその味を楽しんでいた。
次に会うときの必殺技を考えながら。

END


8年後の「中二病でも恋がしたい!」
(二次制作小説)

  • エピソード1 居酒屋での語らい
  • エピソード2 厨二病の継承者
  • エピソード3 旋律のナイトシエスタ
  • エピソード4 境界線上の決闘
  • エピソード5 戦場のアルバイター
  • エピソード6 聖調理人のレゾンデートル
  • エピソード戀1 異世界からの訪問者
  • 8年後の「中二病でも恋がしたい!」設定
  • MMDでも中二病したい
  • にゃんくるオリジナル小説、二次小説一覧