8年後の「中二病でも恋がしたい!」

エピソード1 居酒屋での語らい 「レモンサワーとモリサマーは響きが似ているデスよ!」


厨二病。
それは中学二年の頃になりやすいとされている、恐ろしくも愛すべき病のことである。

あれから8年後。
青春時代を謳歌し、あの頃の甘酸っぱくそして苦い経験を経て彼女らは成長していた。

かつて厨二病だったことを悔やみ人生をやり直そうと決めた者。
厨二病であることが生きがいとなっている者。

まったくといって反対の二人。
二人の邂逅によって今宵はどのようなエピソードが紡がれるというのだろうか……
これは、ある居酒屋にて行われた女子会の実録である。



「待たせたデス! 凸守早苗、ここに推参デス!」
「お、やっときたわね。遅かったから勝手に始めてるわよ……」
「すでに酒臭いデスね……この時点で何杯目デスか?」
「え? まだ3杯目だけど……」
「ずるいデス! 割り勘の意味ちゃんとわかってるデスか?」
「分かってるから、飲んでんのよ! それに遅刻したほうが悪い。これ社会の常識よ? 覚えておきなさい」

ポーズを決めて颯爽と現れた凸守早苗。
足元まで伸びる長いツインテール、その髪先を巾着袋で束ねた姿は8年前と変わらない 。
その言動から察するのは酷なことかもしれないが、名門大学の現役女子大生なのである。

かたや片手にビールのジョッキを持ち、凸守相手に社会の常識とは何かを語り出したのは丹生谷森夏。
すでアルコールが入ってほろ酔い状態の彼女は今や社会人。彼女の本性とは裏腹に同僚からはしおらしくて勤勉と評されている。

「とりあえず、なに頼む?」

ぐいっと飲み干しジョッキを空にしたところで、森夏はメニューを突き出した。

「レモンサワーを頼むデス!」
「はぁ!? 馬鹿じゃないの? 一杯目は生チューに決まってんでしょうが!? これ社会の……」
「うるさいデス! この凸守に社会の常識など意味ないデス! そこの店員ッ! 注文あるデスよ!」
「アンタ、その呼び方は店員に失礼じゃない? あぁ~もう店員!! 早く来なさいよ!」

他の作業に手を取られて注文を取りに来ない店員にいらついた様子の森夏。酒が入ってさらに言葉がきつくなる。
店員に容赦ないのは、森夏の方では……と凸守は思った。



「……お待たせいたしました」
おどおどした様子で店員がレモンサワーと生ビール(中ジョッキ)を運んでくる。

「じゃ、カンパーイ!」
「デス!」

二人は乾杯するや、運ばれてきたアルコールを喉に流し込む。

「あ~来るわ……」
「くぅ~染みるデス!」

ほぼ同時に唸る二人。

「ところで、どうでもいいことデスが、話してもいいデスか?」
「お? 面白かったら何かおごってあげるわ」

凸守早苗は炭酸の弾ける泡を眺めながら呟いた。

「レモンサワーとモリサマーは響きが似ているデスよ!」
「ほんっとどうでもいいわね、アンタ! あとモリサマー言うな!」

二人のやり取りは8年前とあまり変わらない。
違うといえば昔は取っ組み合いが始まるところだが、今や挨拶代わりになっていることくらいだった。



「刺身盛り合わせ、串カツ盛り合わせ、あとコレ追加で」

ジョッキを指さしながらテキパキと注文をこなす森夏。片手にあるビールもそろそろ無くなりそうな勢いである。

「はっ……梅サワー! これは盲点デス! 凸守はこれにするデス!」

凸守は飲み放題向けドリンクメニューに釘づけになっていた。
注文を頼むたびに違うものを頼む凸守は新しい味を開拓している様子だった。

「で、今日は何デスか?」
「何って?」
「分かっていないとは言わないデスよ。この凸守早苗、聖人君子のような広い心。悩める一般人を救うために日々特訓しているのデス! 本日も悩める一般人を救うのだと覚悟を決めていたら、電車に乗り遅れたデスが……」
「悩める人を救う……ね。ふぅん、いい心がけじゃない」
「で、今回はなんの愚痴デスか? また、彼氏に振られた話デスか?」
「そんなに愚痴ばっかしてるわけじゃないわよ! あのね……」
「フム……」
「あたしさ、秘書課に転属になったって言ったかしら?」
「それは前に聞いたデス……そのせいで経理課の彼氏に振られたんデスよね?」
「あんなのはもういいの! あんな男! こっちから願い下げよッ!」

森夏のジョッキがまた空になる。
凸守は感じていた。このペースで飲んでいるからには今回のヤツは相当手強いと!



「串カツきたデス……もう覚悟決めたデス……」

注文が一通りそろったところで、凸守は梅サワーを両手で支え臨戦態勢を整える。

「さぁ、来いデス! なんでも来やがれデス!」
「……どうして、職場の先輩って馬鹿ばっかなのかしらね!?」
「きたデス! 職場のフラストレーションきたデス!」

森夏は串カツの身を箸で小皿に抜き取ると、抜いた串をカツに再び突き刺した。

「アンタみたいに学生には分からないかもしれないけど! あのババァ! 嫌味タラタラそんなことで時間潰して給料ぶんどってんじゃないわよ! こちとら仕事が進まなくてサービス残業よ? テメェの無駄話のせいで会社は損害受けてんの? 分かる?」

ああ、せっかくの串カツが蜂の巣にされてゆく……とカツの心配をしていた凸守であったが、見るも無残な形になったカツはしばらくして森夏の口の中に運ばれた。
カツは犠牲にならずに済んだのだ。

「要するに……馬鹿ってことなのよ!」
「……それはさっき聞いたデス!」

酔っている人間に突っ込んでも効果は薄いが、ひとまず合いの手を打っておく。
非定期で開かれる女子会。二人が行うこの女子会のメインイベントは森夏の愚痴を凸守が聞くというものになりつつあった。

「産休で休暇とるって言うから仕事引き継いだわけ、そしたら何? 引継ぎの資料が全然ないせいで上司にも嫌味言われるし! 休むなら休むでそれ相応の準備ってもんがあるでしょ~が!」
「なるほど、その先輩に対して言いたいことは、社会人の自覚を持って欲しいということデスね?」
「アンタ良い事言うじゃない……そう、つまりね……先輩は馬鹿ってことなのよ!!!」
「もう駄目デス……完全に酔ってるデス……」
「酔ってな~~~い! でね?」

愚痴はさらに続きそうだった。凸守は覚悟を決めることにした。



「……緑茶割りお願いするデス」

森夏の愚痴が一段落つき、凸守は体力が尽きていた。店員に対しても言葉に元気がない。

「それにしてもさ、私達がこうやって一緒に居酒屋にいるって想像した?」
「するわけないデス! いや、そうデスね……その当時は考えもしなかったということデスが」
「あれから8年か……早いものね」

森夏は遠い目をする。

「そういえば、マスターにまたお子さんが生まれたそうデスよ、今度お祝いに行くデス」
「へぇ……そうなんだ。あの二人ももう二児の親か。あの頃は危なっかしくて見てられなかったものだけど……」
「刻とともに変わってゆくものなのデスよ」
「アンタは全然変わってないけど……あ、そういえば、アンタ卒業式の日に泣きながら……」

卒業生の森夏に向かって、凸守が涙をためて放った言葉、

『貴様を送り出すには、モリサマーという名がふさわしいデス』
『だから、モリサマー言うなってんでしょうが!』

というやり取りが周囲に謎の感動を与えたのは一部では伝説として語り継がれている。
ちなみに高校の演劇部ではその台詞が、観客を感動させられるかを主軸においたエチュードの題材になっているということを二人は知らない。

「それはもう忘れるデス! 凸守、一生の不覚デス!」
「ふふっ……忘れないわよ」

恥ずかしさに顔を赤らめながら凸守は抗議した。



宴もたけなわ、二人も帰り支度を始めだした。

「じゃ、お会計を……割り勘デスからお勘定は……」
「いいって、いいって! アタシ社会人だし、どーんと奢ってあげるわよ! どーんと!」
「そうデスか? それではお言葉に甘えて。ごちそうさまデス」
「うむ、それでよし!」

社会人を気分良く帰らせる。これも社会の常識なのだと凸守早苗は感じていた。
(前回もこの流れだったデスね……)

財布を預けられた凸守が支払いを終え、二人は店を出た。終電の時間はすでに超えてしまっていた。
現在は空いていたベンチに腰掛け、共にタクシーを待っている状態である。

「うう、この時間になると肌寒いデス!」

身震いする凸守。そこに肩に触れる温かい感触に気づいた。

「……すぅ、すぅ」
「お酒あまり強くないのに無理するなデス……」

酔っ払って安心しきった顔で眠りこける森夏。
ため息をつく凸守だが、その顔は優しいものであった。

「……ありがと」

いぜん眠っている様子の森夏。今のは寝言だったのか、それとも……
その言葉によって心が温かくなったのはきっと酒のせいだろう、凸守はそう思った。

「家まで送るのはもう慣れたデスからね……せめて家まで帰るまでいい夢見るデスよ」

厨二病。それは恥ずかしくも面白い。
それは、8年が経ち変わるものがあったなか、決して変わることはなかったのである。
二人が集い、語り合った夜はこうして更けてゆくのだった。

END



8年後の「中二病でも恋がしたい!」
(二次制作小説)

  • エピソード1 居酒屋での語らい
  • エピソード2 厨二病の継承者
  • エピソード3 旋律のナイトシエスタ
  • エピソード4 境界線上の決闘
  • エピソード5 戦場のアルバイター
  • エピソード6 聖調理人のレゾンデートル
  • エピソード戀1 異世界からの訪問者
  • 8年後の「中二病でも恋がしたい!」設定
  • MMDでも中二病したい
  • にゃんくるオリジナル小説、二次小説一覧